まどろみは腕の中で



 私は眠りが浅い。
 隣に人がいればまず眠れないし、同じ部屋ぐらいならまだかろうじて寝れるけどそれでも物音がすればまず目が覚める。今は自分の部屋があるのでまだ眠れるけれど、たまに夜を共にする時なんかはまず眠れない。疲れて眠りそうだと思っても横になると落ち着かず逆に目が冴えて眠れず、途中で抜け出して自室で寝ていた。好きな相手でもこれだと思うと、少し悲しくなるが性分だから仕方ない、と諦めていた。

 ある日の午後、その日は暖かくて天気のいい日だった。
 昨夜は相変わらず眠りにつけず、抜け出そうとしても抱きつかれてしまって動けば起こしてしまいそうで抜け出せず、眠れないままに朝を迎えてしまった。一日ぐらいは寝ずともどうにでもなるけれど、この暖かい日差しはどうしても眠気を誘う。琵琶を弾いてくれ、と言われ弾いていたがどうしても欠伸が出る。何とか噛み殺そうとするがなんでも出るとさすがに隠し切れない。
「眠いのか」
隣で欠伸に気づいたであろう文和が話しかけてくる。
「……お構いなく」
 眠いからと言ってだからどうすることもできないし、どうせ一人になれば眠れるのだから。
「眠いなら膝くらい貸してやるぞ?」
ぽんぽんと自分の太ももを叩く。やさしさなのか、ふざけてるのか。その表情からはくみ取れない。
「……気づいていると思うけど、一人じゃなきゃ眠れないの」
「まぁ物は試しってやつだ。それとも添い寝のほうがいいかな?」
「それ、余計眠れないから」
 そんな軽口をたたくなら部屋に帰してくれればいいのに、と思いながらお茶でも飲んで眠気を飛ばそうかと考えていると、横から琵琶をすっと抜き取られる。
「昨日は楽しんだしな、俺も眠いんだ。一緒に寝てくれ」
 後から抱きかかえるようにして横に倒された。相変わらず余計な言葉が多い、と肘で一撃を入れるが離してはくれない。文和の腕を枕のようにして寝かされる。いいや、どうせそのうち文和のほうが先に寝てしまうだろう。そうしたら抜け出して自分の部屋で寝てしまおう。
 それまでの辛抱だ、と大人しく腕に包まれる。いつも眠いと思っても、こういう体勢になると、なぜか途端に間が冴えてきてしまう。さっきまではあんなに眠かったのに。
 早く寝てくれないかなと思っていると、とん、とんと肩を叩かれる。呼ばれたのかとも思ったが、それなら声をかけるだろうし、その間隔はゆっくりだ。子供じゃないんだから、と思いつつその振動を受け止めているとだんだんと身体がふわふわと浮かんでいるような気分になってきた。暖かな日差しと、背中からのぬくもりと、心地よい振動、そして今となっては落ち着く匂い。そういえば、昔母もこうしてくれたっけ。そんな記憶が浮かんでは消え、身体の輪郭が解けていく。少しずつ力が抜けて、まどろみの中に身体が沈む。  瞼が、ゆっくりと落ちていく。


◆ ◆ ◆



「寝たか?」
 すうすうと寝息が聞こえる。覗き込めば初めて見る妻の寝顔だ。前々から夜を共にした時に寝ていないであろうことは気づいていた。朝起きれば一人だったときもあるし、先に支度を終わらせていた時もある。朝まで一緒にいた日はずっと眠そうにしているのも知っていた。夜に部屋を訪ねたときも、寝台に入っていても寝ている姿を見たことはなかった。
「余計眠れない、ね」
 穏やかに寝ている顔にかかった髪をどかしてやる。その寝息を聞いていればこちらも眠くなってくる。このまま一緒に寝てしまうのもいいだろう。だが、もうしばらくこの寝顔を眺めていたい。心を許してくれた証のようなこの穏やかな寝顔を。