とある夜の話



「今夜は私が好きにする」
 部屋に入ってきた妻が首を傾けながらイタズラっぽくこちらに笑いかける。
「たまにはいいでしょ?」
 俺には年下の妻がいる。かなり年下だ。親と子ほど離れてると言ってもいい。いつもなら俺の腕の中で意地を張りながらも俺の求めるままを受け入れ愛され、乱れる妻が今日は自分から求めるという。
「ほぉ、そりゃ楽しみだ」

 機嫌のよい妻の手を取り寝台に招き入れると隣に座らせる。いつもなら少し照れながら恥ずかしがるようにそっぽを向いている顔が、何か企んでいるのか口の端を上げて楽しそうにこちらを見ている。何をしてくれるのか、俺を楽しませてくれるのか、楽しみに思って見つめ返す。
「あんたに寝台の上で好きにされる日がくるなんてな」
 ニヤリと笑いながら目が合うと妻が少しムッとしながらも頬が染まる。おや、もういつもの調子に戻ったか?ま、かわいい妻ならこのままいつもの調子に持っていってもかまわない。そう思って更に詰め寄ろうとすると、
「私がするの」
と、肩を押し返された。
「わかったわかった、今夜は大人しくあんたに従おう。さぁ、どうすればいい?」
「とりあえず寝てもらおうかな」
 枕を背中に集め、座るように横になる。妻は隣に座り、こちらに上半身を向け俺を撫でる。髪を撫で耳を触り頬に触れる。優しく慈しむように触るその手の暖かさは情欲より眠気を誘う。
「んー、このままじゃ寝てしまいそうだ」
「いっそ寝てしまってもいいかもね」
 頬を撫でる手が止まり、そのまま包み込む。ゆっくりと顔が近づき唇が触れる。ふわりと重なるだけのかわいい口づけだ。
「こんなものか?」
「まさか、でも任せてくれるでしょ?」
 にっ、と笑うこいつの負けん気の強さと気まぐれな態度はよく知っている。だが、身体を重ねるようになってからは、夜の間は意地を張ることはあってもされるがままの妻だ。さすがに最初に会った時のような乱暴な真似はしないだろうが……。
 俺の顔の上に垂れる柔らかい黒髪を耳にかけ、もう1度唇を重ねる。ちゅっちゅっと何度も小鳥が啄むように唇の感触を確かめる。そのうち妻の柔らかい唇が俺の唇を挟み、味わうように愛撫し始めた。
 俺たちはあまり口づけを交わさない。手や額、頬にすることはままあるが唇同士で重ねることはあまりない。髭が当たるのが気持ち悪い、と最初の頃に言われ、しようとすると避けられるからだ。

 今までしてこなかった分を埋め合わせるように重ねる唇は優しくて甘い。大人しく従う、と約束していなければ捕まえてもっと激しく交わしたいものだか……妻のそれはあくまで優しく、愛おしいものに触れていたいようなそんな口づけの仕方だ。
 何度も繰り返すうち唇に違う感触が当たる。ぬるりと唇よりも熱いそれは俺の唇を割り、口の中に侵入してくる。驚いて目を開くと、妻もうっすらと目を開いており視線が合う。すっとその頬に朱がにじむ。妻の熱を帯びた視線と口内に侵入する熱い異物が一気に身体を熱くさせる。
 舌と舌が触れ合う。ぬるぬるとしたそれが優しく絡み合い、擦れ合う。ずれた隙間からは吐息が漏れ、その音がまた劣情を誘う。 もっと激しく味わいたいと妻の頭に手をかけるとそっと手が重なり、外された。
「だめ。今日は従ってくれるんでしょ?」
 指を絡め手の動きを封じられる。
「しかしな……」
「あの時みたいに縛ったほうがいい?」
 ニヤリと笑う口からでるその言葉がどちらの時を指しているのか。どちらにしても縛られたくはない。

 ゆっくりとでも確かに情欲を誘う口づけ。
「今日はそういうことか」
「そういうこと?」
「俺を焦らしていつもの仕返しがしたい、そんなとこだろう?」
「私はそんなあなたみたいな意地悪なことしない。ただ、私が感じるままにしたいだけ」
 妻の手の指の背が俺の喉を撫で上げ、顎を持ち上げる。
「許してくれるでしょ?あなたなら」
「頼むから痛いことだけはするなよ」
「もちろん」
 もう一度顔が近づく。今度は唇ではなく頬にひとつ。そして耳元に。
「ここ、舐められたことある?」
 耳元で妻が囁く。
「耳か?いや、ないな」
「そう。じゃあ試してみたい」
 俺の髪をすくい上げ耳にかける。顔がそっと近づき耳朶を食む。唇の時のように挟み、吸い上げ、ちゅぱちゅぱと水音が耳元に響く。耳を舐められて気持ちいい、と言うよりはその音がいやらしい。妻のいじらしい試みを楽しんでいると、舌が耳の外線をなぞり上げその上部分に届く。唇がそこを食んだ時、ぞくりとした感覚が背筋を駆け上がった。思わず肩をすくめると
「ここ?」
と妻が見逃さない。
 唇に挟まれた内側を舌が舐めるとまたぞくぞくとした感覚が生まれ思わず眉を顰める。
「文和って……ここ、感じるんだ」
 にんまりと嬉しそうな声が聞こえる。
「いや、気持ち悪いだけだ。やめてくれ」
 そこをこれ以上舐められては気持ち悪くてたまらない、と拒否したがこの妻に通用するはずもない。止めることなくまた舐め始め、込み上げる感覚を耐えるしかない。劣情を誘う水音と初めての感覚。妻とはいえ、年下の女にこんなことをされている事実がなんともいえない気分にさせる。
「文和、かわいい」
 されるがままに耐えていた俺をみて妻が呟く。
「俺がかわいいだって?いつものあんたの気持ちがわかるよ。目が腐ってるんじゃないか」
「じゃあ私もいつもの文和の気持ちがわかる。とってもかわいく思えるんだもの」
 頬に口づけを落とす。
「赤くなってるの。かわいい」
 その言葉で頬が熱くなってることを感じ、さらに温度が上がったような気がした。
「好き」
 愛を素直に囁く妻は、よく見るイタズラな笑みではなく、愛おしいものを見つめる優しい目で微笑みかけてくる。そんな顔を見ては何も言い返せず、
「そうかい」
としか答えられなかった。
 まだ妻の口づけの雨はやまない。耳の下、そして首元へ。襟元が広がっているのを幸いと鎖骨の辺りまで降ってくる。喉元を食み、喉仏を優しく挟まれるとその感触に思わず首を反らせる。鎖骨からゆっくりと舌が這い上がり、まるで水の中にいるように息が苦しくなる。妻に食べられてしまうような感覚に溺れそうになった時、もうっ!と憤慨した声が聞こえた。

「なんでよりによって今日この服なの?」
 俺が今日来ている服はいつもなら装備の下に着ているもので、釦が多い。首を責めつつ脱がそうとしたのだろうが、釦のキツさも相まってなかなか取れなかったのだろう。上からふたつだけ外され、みっつ目で苦戦していた。
「自分で脱ぐか?」
 一生懸命になって脱がそうとしている妻が先程までの官能的な女から、子供みたいにむくれながら釦を外そうとしてる姿に変わり笑いを誘う。昔は表情もあまり変えようとせず内心を悟らせまいとしていた娘が、今ではくるりくるりと表情を変え素直な感情を見せる。それだけ二人の距離が縮まったのだと、こういう時に実感する。
「いい、私が脱がせたいの」
 ちょっとだけ待って、と俺の太ももに乗りひとつづつ釦を外していく。色気も消え失せ、かがみこんで取り組む姿をこれはこれで可愛いものだと眺めていると、襟元に気になるものが見えた。
 やっと全部の釦を外し終えるとそのまま脱がされ、上半身は何も身につけていない姿になる。満足そうな顔の妻にひとつ、問いかける。

「なぁ、あんたの服を脱がせてもいいか」
「私の服?」
 一瞬躊躇う表情を見せる。ということは、見間違いではないのだろう。
「俺だけが脱ぐのは寂しいんだ、脱がすぐらいいいだろう?」
 妻に手を伸ばす。意外にもそれは邪魔されることなく帯に届いた。
「……」
 両手で口元を隠しながらも黙って俺の手を見つめるのは了承したとみていいのだろう。ゆっくり帯をひっぱり、解く。前衣が開き、中の着物がチラリと見える。それ、を着てきたことはやはり少し恥ずかしいのか口元を隠したまま、目線はそらされている。
 さっきまでの積極性はどこへいったのかと笑いそうになりながら口元の手を掴み下ろす。妻の顔は気まずいのか恥ずかしいのか頬を染めながらどこかをみている。肩からゆっくりと上着を脱がすと、中に着ていたものが姿を現す。それは服の形をしてはいるものの、隠すという仕事はしていない。中に隠すべきものをそのうっすらとした靄で逆に見せつけるような役割へと変わっていた。
 纏っているのに全てが見え、見えているのに隠されている。寝台の傍の灯りが揺れる度に情欲をそそる。
「せっかく着てきたんだ。もっとよく見せてくれ」
 じっと見つめられることを恥ずかしく感じたのだろう。手で隠そうとするが、そうはさせない。両手をそれぞれで握り、それを阻止する。
 何も纏わないよりもなまめかしい姿で俺の太ももの上に座る妻。自分で着てきたくせに、見られる段となれば顔を真っ赤にして恥じらいをみせる。これほど可愛く抱き潰したくなる妻が他にいるだろうか。

 その姿を堪能していると、握っていた手が握り返される。妻の顔を見ればまだ少し恥じらいの色があるものの、意を決したような眼に変わっている。
「だめ」
 短く呟く。
「今日は私が好きにするの」
 繋いでいた手を解き重ね、耳に頭をよせ囁く。
「興奮、した?」
「ああ、したさ」
 妻の方に顔を向ければまた唇が重なり合う。
「あんたのこんな姿を見せられて興奮しない夫なんていないだろうよ」
「そう、よかった。着てきた甲斐があった」
 もう一度口づける。
「でも、手を出さないでね」
 恥ずかしがりながらもまた意地悪そうに笑うようになった。俺が興奮したと聞いて安心したのかもしれない。恥じらいを感じながらも俺のために着てくれた、その事実だけでも愛おしい。そして滾る。あんたに従うとした約束をいつまで守ってやれるか。破ったら恐ろしい目に会いそうな気もするが、それ以上にこのままいけば本能のままに抱きたくて堪らなくなるだろう。
そんな俺の気持ちを見抜いたのか、妻は解いた帯を持ち出し、俺の目に被せる。
「縛らないであげるけど、見ちゃだめ」
 羞恥心かイタズラ心か。頭の後ろできゅっと結び、視界が塞がれる。
「せっかく着てきたのにもう見せてくれないのか」
「だって思ったよりあなたの反応がいいんだもの。今日は私が楽しみたいの。このままだと我慢できなくなるでしょ?」
「楽しむのもいいが、耐え忍ぶ俺の身にもなってもらえるかね」
「大丈夫、気持ちいいから」
 それは余計に辛くなるのでは、と思ったが妻の手で気持ちよくさせられるというその宣言はやはり魅力的だ。
「ほぉ、じゃあ満足するまで味わうとしようか」
 あえてどちらが、とは言わない。どちらかが満足するか我慢でなくなるまで。今日はきっとそういう日だ。

 手の甲に柔らかいものが当たる。おそらく唇か。どうも今日はとことん俺を味わいたいらしい。中指の背をくちびるでふわふわと挟んだ後関節を咥えられる。軽く吸いながら舌で舐めまわし指を持ち上げる。手のひら側まで舌を這わせると、指先から根元までゆっくりと食べられていく。指の全てに舌を這わせ包み、押し上げ、揺らし、擦る。その舌の動きはアレを想像させる。そのつもりで舐めているのか。目が見えない分、舐められているその感覚に集中してしまう。ただの指1本だ。ただの指1本を舐められているだけでこんなにも想像してしまうのは、目隠し故か。思わずふうと声が漏れ出た時にゅるりと指を離される。
 指での目的を達成したから、次、とでも言うように妻の口での愛撫は止まらない。
 指の付け根、手の甲、手首の内側、肘の内側、二の腕、と本当に全身を食べる気なのではないかと思うぐらい唇での愛撫が続く。挟み、吸い、舐める。肩までたどり着く頃にはそのじれったさが積もってきた。ただ右腕に唇があたっているだけ、それだけの事なのに体温が上がる。肩にちゅっと1度だけ唇が踊る。
「大丈夫?」
されるがままであまり反応がないと心配してか妻が声をかけてくる。
「寝ちゃってもいいよ」
「いいのか?」
「いっそ寝てくれた方が好き勝手できるし」
「俺が寝ないとできないことでもする気か?」
「もちろん起きててもするけど」
 見えないが、きっと楽しげに笑っているのだろう。
「寝ないなら、せめて楽しんでね」

 肩に置かれた手が胸へと滑る。小さな熱はそのまま腹まで降り、また胸へと戻る。
「私、文和の肌好き」
「俺の肌が?」
 こんな中年の肌の何がいいかと思うが、妻は好きな物は好きとはっきり言う。好きなものを伝える時に嘘はない。おかげで好きなものが覚えやすくていいが、俺の肌まで好きだとは……。
「この柔らかさが好きなの」
 腹に指をあて、少し引っ張るように力が籠められる。
「ハリが落ちて柔らかくて、撫でると手に馴染んで気持ちいいの。おもちみたいで美味しそうだし」
「だから今日は片っ端から食べているのか」
「そう、文和を味わいたいの、口でも、指でも、全部」
 指が胸にたどり着く。指の背がそこを撫でる。
「おいおい、男の胸なんて撫でても仕方ないだろ」
「そんなことない」
 指がそこを優しく行き交う。女を責めることはあっても責められたことなどほとんどない。そういう趣味のやつもいるだろうが、俺はそちら側には興味はなかった。触れるか触れないか、風か指かもわからない力加減で触れたかと思えば、その周辺をくるくるとなぞる。そこで乱れ狂う女もいたが、俺がそこでどうなるという気は全くしない。
「ほら、立ってきた」
 妻の一言にどきりとした。しかし、それは前に誰かも言っていた。
「感じてなくても立つ、と前に言っていたのはあんたじゃないか」
「懐かしいこと覚えてるね」
 本当に立ったのであろう先端を指で押しながら妻が笑う。
「確かにそういうこともあるだろうけど、文和はどうかな」
「いやいや、触られてる感覚は確かにあるが、あんたみたいに乱れたりすることはない」
 妻はここが弱い。というか全身どこも弱いのだが。
 "あの時"もそこまでは現実だったのでは、と俺は思っている。
「そうやって余計なことを言う」
 ムッとしたような声が聞こえる。
「いつもされているから、俺にもしようっていうのか?」
「試してみてもいいでしょ?」
「無駄だと思うがね」
 面白い試みだとは思うが。今のところそういう感覚は全くもってない。
 押されたり撫でられたり、といった感覚はある。だが触られてる感覚はあっても気持ちいいとは全く思わない。

 ぬるりとした感触がした。指で反応がないと分かったのか口での愛撫を試し始めたようだ。舌を大きく使って全体を押さえつけては揺らす。かと思えば固くした先端でつつき、押す。そのやり方に少し感心してしまった。いつもあれだけ泣きそうになりながら乱れているのに、自分がされていることをしっかりと認識して覚えているのか。逃げ出そうとするぐらい無理だのなんだの言ってるがまだ余裕があるらしい。次の時はもっと責めても大丈夫そうだな。
 そう、妻の行為から次の楽しみを想像していたとき、脚の間に何かが触れた。完全に油断をしていた。急な感覚に思わず腰が引く。
 布の上からのふわりとした感触。刺激するというよりはあくまで触れているだけのような、これで感じるなんていわないでしょうね、と言わんばかりの撫で方。視界が塞がれている分だけ感覚が鋭敏でなければこの程度、と思うが今夜は違う。あちこちを愛撫され、視界まで塞がれ、ただただ妻から快楽の欠片を与えられている。一つ一つは大したことなくても積み重なれば……。
 掌全体で包むこともあれば指1本がするりと撫でていく。少しずつそこが硬くなっていくのがわかる。じわりじわりと這い上がる快感にふぅと大きく息を吐く。
「気持ちいい?」
 妻が楽しそうな声で聞いてくる。
「そりゃあね」
「どっちが?」
「どっちというと?」
「胸と、ここ」
「それはもちろんこっちに決まってるだろう」
 そこを触る妻の手に自分の手を重ねる。このまま強く擦り上げたい。妻の柔らかい手を使ってするのもまた気持ちいいだろう。
「本当にそう?」
 そう聞いてきたあとまた胸を舐められる。少し、ゾクリとする。先程まではなかった感覚がじわじわと産まれている。
 重ねていた手を外され、また触るかどうかのような強さで撫でられると、舐められる感触とともに俺の身体に焦れったくじりじりとした熱を生む。
 右から左へと舐める場所を変えたと思えば空いている手が舐め終わったほうを撫でる。下よりも硬い刺激で撫で回される。舌と指と。その2つの刺激がちりちりと身体を焦がす。
「気持ちいいところを刺激しながら他のところも触ると、そこも気持ちいいって感じるようになるんだって」
 俺の胸を舐め回しながら妻が呟く。
「気持ちよく……なった?」
 俺が胸で気持ちよくなるなんてありえない。ありえないが、今確かにそこから、わずかではあるがこの身体に染み込む感覚がある。
 受け入れていいものか。この歳になって初めて得る感覚があるとは。それも愛しの妻からだ。正直に伝えていじらしい妻の愛を素直に受け取るか、それとも己の矜恃として隠し通すべきか。
「……いや」
「嘘つき」
 下に当てられていた手の圧が強くなる。
「ここ、さっきより硬いもの」
 僅かに形を持った頃よりもむくりと起き上がり始めたそれをゆっくりと撫であげる。
「気持ちいいんでしょ?」
「そうだ、と言ったら?」
「嬉しい」
 ちゅっと胸を吸われる。今までと違う強い刺激に思わず力が入る。
「私が文和を気持ちよくさせられてるの、すごくうれしい」

 ちゅっちゅっと何度も吸われる度、息が漏れる。今、妻はどんな顔をして俺の胸を吸っているのか。下半身に集う熱と胸に咲く熱が頭をぼうっとさせる。花を咲かせることにいそしんでいる妻の頭に手を伸ばす。絹糸のように柔らかい髪が指に絡みつく。ゆっくりと撫で、妻の形を熱以外で感じ取る。
 髪を頭を撫でる度にゆっくりとそれは下に降りていく。みぞおち、わき腹、臍と熱い花が咲いていく。
「腰、上げて?」
 言われた通りにすると、するりと脚衣と下履きを下ろされる。あっという間に足首まで下げられ抜きさられる。
 見えてはいないが全てのものを剥ぎ取られ、下腹部に空気が触れるのを感じる。脱がしたあと、どこも触ってこない無言の時間が長く感じる。無防備に全てを晒した俺を見てなにを思っているのか。触られてもいないのに触られていた時より息が上がる。
 その時、膝の内側にすっと何かが当たる。急な感触に思わずビクリと反応してしまう。膝の横に当たったそれはすーっと太ももを通り脚の付け根の辺りで止まった。ゾクゾクとした間隔が脚から背中に伝わり、思わず身体に力が入る。
「ね、文和。すごい」

 妻の声がやっと聞こえた。
「ここ、いつもより、すごい」
"それ"をみて興奮したのか妻の声には熱が籠もっている。
「文和ってこういうのに興奮するんだね」
 脚を這い上がって来たものがトントンと脚の付け根を叩く。これは指か。本数が増え、するりするりとそこに触れるか触れないかまで寄せては返す。くすぐったいような気持ちいいような感覚がますますそこを意識させる。
 両手を塞がれてる訳ではない。止めようと思えばいつでも止められる。それなのにもう少し、もう少し妻に全てを任せてみたい、と思ってしまう自分がいる。
「かわいい」
 熱い吐息が膝にかかる。そのまま柔らかい唇が俺を喰らう。内側の柔らかい皮膚を啄み齧り味わい嬲る。思わず膝を外に倒すと妻の腕がそれ以上脚を動かさないように絡みつく。ゆっくりと中心へ熱いものが移動をする。味わっているのか焦らしているのか。"そこ"に辿り着くことを期待してどんどんと呼吸が荒くなる。こうなっては目隠しをされていて良かったのかもしれない。今の自分の顔はとてつもなく情けない顔をしているに違いない。そんな顔を見られるのはさすがに羞恥が勝る。自分が見えないこと、妻に見られないからこそされるがままにこの快楽を味わえる。

 あと少し、あと少しでそこに辿り着く。舌がそこに当たるかと思った時それはすっと離れる。そのまま足の付け根をなぞるように舐め始め、焦れったさとくすぐったさが混ざり合う。
「まだ、だよ」
 妻の楽しげな声が聞こえる。
「まだ」
 吐息があたる度にそこを舐めて欲しいと言いたくなるのを何とか我慢する。言ったところでこの妻だ。素直に従ってくれるとも思えない。ヌルヌルとした感覚がその周辺だけを弄ぶ。だんだんと付け根の下の方に下がる。抑えられていた脚を持ち上げられ片膝を立たされ、もう片方の脚は横に倒される。気づけばこれはかなり、まずい体勢ではないか?全てを見られているような……情けない格好をさせられている気がする。しかしそれでも自分のソレは萎えることなく寧ろ昂っている感覚がある。妻に、そうさせられている。見られている。愛しくてかわいい妻に。

 その時突然新しい感覚に襲われる。舐められたい、と思っていた場所のその下、本来なら誰かに触られたくもない急所。そこに暖かい吐息がかかったかと思えば、熱いもので包まれる。
「うっ」
 予想もしていなかった感覚に思わず声が出る。ふわふわと転がされ気持ちよさと本能的な忌避の気持ちがないまぜになる。
「まて、そこはだめだ」
「なんで?」
「そこはさすがの俺もな……」
「怖い?」
「まぁ……な」
「ん、わかった」
 大人しく引いてくれたことに少しほっとしたのも束の間、さらに脚を押し上げられる。
「おい、何するつもり……」
 この体勢では本当に全てを見られてしまう。それはさすがにいくらなんでも妻でもダメだ。慌てて止めようとした時、さっきまで舐められていた場所よりさらに下を舐められる。
「おい、どこをっ」
「そこまでいかないから大丈夫」
 なにが大丈夫なんだ。なにも大丈夫じゃない。俗にいう蟻の門渡り。腹の底のさらに奥底を押し上げるように生暖かい舌がそこを揺らす。昂っているソレとは違う快感がそこから生まれる。舌から広がる熱がじわりじわりと広がり身体を突き抜ける。ほんの僅かなその場所をただ舌で押し上げられているだけで力が抜け、触られてもいない先端が打ち震える。
「頼む、そこはやめてくれ」
 このままでは取り返しのつかないことになる。そんな予感が頭を過ぎり、慌てて妻を止める。強く言ったつもりが、あの変な感覚のせいで声が上手く出ずに弱々しい声しか出なかった。
「じゃあ、どうして欲しい?」
 妻は楽しそうに聞いてくる。妻にねだることなど別に俺にとっては恥ではない。求めれば許してくれるようになった妻には、甘えることも不思議と嫌ではなかった。ただ、元の望み通りに舐めてもらうのはこのままだと持たないかもしれない、かといってさすがに挿れたいと言ったところで通る気もしない。妻はまだ味わいたがっている。考えあぐねていると急かすようにまたそこを舐め始める。思考を邪魔する快楽を我慢しながら考える。
「少し、待ってくれ」
「待てない」
 刺激は止まることなく、代わりを求めない限り舐めるのを止めることはないだろう。
「抱きしめさせてくれ……どうだ?」
 右手を差し出して妻の手が来るのを待つ。ふふっと笑い声が聞こえたと思ったら右手を握り返された。そのまま引っ張りあげると素直に従って胸の上に倒れ込んできた。そのまま抱きしめ、安堵のため息をつく。
「そんなに危なかった?」

 胸の上の熱が楽しそうに聞いてくる。
「危ないわけじゃない。気持ちが悪かっただけだ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃないさ」
「でも腰は浮いてたし、声も震えてた」
「気持ち悪いからな」
「ふぅん……"私は"優しいからそういうことにしてあげる」
 余裕がある話しぶりに楽しんでいることがよくわかる。落ち着きを取り戻そうと妻を抱きしめた。額に口づけをし背中を撫でる。あの薄絹のさらさらとした感触がする。
「これをとってもいいかい」
 目隠しにされている帯を指さす。触っていたらあの恥ずかしがる様子を含めて扇情的な姿を見たくなってきた。もうそろそろ妻の"お楽しみ"をする時間も十分だろう。
「だめ」
 まだ足りないか。と息をひとつついた時、不意に俺のモノを握られる。急な快感がまた心をチリつかせた。
「もう休憩もいいでしょ」
 目的に向け下に降りていく妻に期待してしまう自分がいることを否定できなくなっていた。

 ふぅっと吐かれた息が焦らされ待ち焦がれてるそれに当たる。それだけで次に起こるであろう事を期待して待ち望んでしまう。
 そこを舐める、という行為は妻はもともと知っていた。そもそも俺と初めてした時もこれが初めてというわけではなかったし、そういう仕事もしていたのだから当然と言えば当然だ。誰に教えられたのか、始めから気持ちよくなる場所を把握していてそこを狙って舐めてきていた。俺とするようになってからは、舐め方もその強さも順番も俺好みを教えて上書きをした。俺の指示を聞きながら少し戸惑いながらも舐める姿を見るのもまた堪らなかった。
 生暖かくぬるりとした舌がそれの付け根に当たる。舌いっぱいを大きく使い包み込むように擦り付け、ゆっくりと先端に向かう。いつもならそのままぱくりと咥えさせて楽しむのだが、今日はまた根元に戻っていく。片手で支えながら舌を押し当てるように先端に向かって登ってはもう少しと言うところでまた降りていく。何度も何度もゆっくりと繰り返し根元は唾液にまみれ、そこに息を吹きかけられる度ひやりとして身体が震えそうになる。唇で挟みながら舌で撫で回され気持ちのいいじれったさが悩ましい。早くあの熱い口の中に押し込んでしまいたい。裏筋の手前まで来てはそこで止まる舌を恨めしく思い、つい腰が動いた。
「だめ」
 動いた腰を押さえつけられる。
「もっと味わいたいの」
 唇で上下に扱きながら甘い声で囁かれる。妻のおねだりがこんなに辛いことがあっただろうか。下から、横からと場所を変え何度も往復させながら肝心なところには届かない。吐く息が次第に大きくなってしまう。腕で顔を覆い、じれったい愛撫の気持ちよさを感じながら、同時にいつまで経ってもたどり着けない快楽に根を上げそうになる。根元からべったりと押し当てられた舌がゆっくりと尖端に向かい、あと少しのところで離れる。それが何度も何度も繰り返される。
「文和」
 遠くで声が聞こえる。
「好きだよ」

また根元から這い上がる舌が、離れると思わせて今度は一気に駆け上がった。  「うっ……」
 急な快感に思わず身体が跳ねる。また根元からゆっくりと柔らかく包み込みながら這い上がり、そこに到達すると一気に強くなる。脚に力が入り息が止まる。
「ね、気持ちいい?」   そんなの見てわかるだろうに、あえて聞いてくるのは意地悪かそれとも褒めて欲しいのか。急な快感に耐えて黙っていると更に続く。
「私だってまだ色々知ってるんだよ」
 今度はその弱いところを左右に振るように舐め始める。手と腕で腰とモノを押さえつけ、逃がす気はないとでもいうようにそこを嬲る。自分の荒くなる呼吸が耳障りだ。それでもここで妻に屈する訳にはいかないと残った理性が頑なに反抗する。が、その理性も次の動きには消えた。
 妻がその口に熱くたぎった先端を咥えゆっくりと飲み込もうとした時、その待ちわびた感覚におもわず頭を押さえつけ腰を押し付けた。

 ゴホッと咳き込む声が聞こえ慌てて手を離す。思い切り押し付けたために喉の奥に当たったのだろう。ゴホゴホと何度もえずくような声が聞こえ、慌てて目隠しを外し上体を起こす。
「悪い、大丈夫か」
 しばらくぶりの視界に入ってきたのは、泣きそうな目になりながらもまた俺のものを舐めようとしている妻だった。黙ってこくりと頷くとその半開きの口にゆっくりと、またものを差し入れていく。口内の熱とぬるりした感触、そして潤んだ瞳と上気した頬にあの扇情的な布に包まれた身体。ゾクゾクと興奮が巻き起こる。
 その小さい口いっぱいにモノを咥え込みゆっくり上下に動かす。動く度にちゅぷちゅぷと淫猥な音が響く。奥のギリギリまで入れる度に少し辛そうな顔をして涙目になりながらも決して止めない。俺を気持ちよくしようと健気な妻の姿に一瞬燻った興奮がまた燃えだす。それを察してか上下に動くのをやめ、奥まで咥えこんで舌を動かし始めた。舌全体で先端から裏筋までを包み込んでの刺激はずっと待ち望んでいた刺激で堪らなく気持ちいい。今度は優しく頭を撫でながら少しだけ押さえつけるようにする。苦しいのか妻の体が少しだけ仰け反り、眉間に皺がよる。それでも舐めることを止めない妻に、愛おしさと快楽がとめどなく溢れる。全体で優しく舐め、少し硬くしては筋の部分を責める。苦しそうにしながらも喉奥に先端を押し当て締める。そんな妻の健気な奉仕をしばらく堪能していればあっという間にその時が来そうになる。
「そこまででいい」
と止めようとしたが、止める気配がない。
「止めないとその口に出すことになるぞ」
 できれば別の中に出したいし、口に出されることを好まないのは知っている。そう伝えれば離すだろうと思いきや、全く引かない。ただ、少し困ったような嬉しそうな顔で舐め続けている。その手がこちらに伸び俺の手を掴み指を絡める。
「まて、本当に出そうだ」
 止められることの無い刺激に我慢が効かなくなる。それでも構わないというように妻が絡めた指をぎゅっと握る。その手を握り返しながら、俺はそのまま精を放った。
 ドクドクとそこに注ぎ込む感覚がする。妻の口に、そのまま。荒く息を吐きながら妻の顔を見ればそれを咥えたままとろりとした目を俺に向けている。その喉がごくりとうごいた。まさか。

「飲んだ……のか?」
 目を細めて微笑むと根元までを咥え込み一滴も残したくないというように、唇で挟み少しずつ扱きながら吸い取ろうとする。その積極的に貪ろうとする姿これは本当に妻かと疑いたくなる。ちゅぽっと音を立て口から抜け落ちる。口に手を当てまた喉を鳴らす。
「美味しくない」

「だろうな」  その色気もない感想にいつもの妻だと安心する。
「文和のなら美味しいかもって思ったのに」
「誰のだろうと味なんて変わらんだろうに」
「好きな人なら違うかなって」
 嬉しいことを言ってくれるとその味から逃がしてやろうと思い、寝台の横の机から水差しを取り杯に注いで渡そうとした時まさかの感触がして妻の方をみる。
 またそれを口に含んでいる。出したばかりのそこを舐められる感覚はくすぐったいような気持ち悪さで腰が引ける。
「まてまて、出したばかりだぞ。もうそこには何も無いからな」
「まだ」
 舐めながら喋られるとまた余計にゾワゾワと気持ち悪さが襲う。
「私、満足してない」
 上目遣いで挑発するように言う。いつも無理だと言っても続けてる仕返しか。
「だとしても、今舐められては勃つものも勃たん」
「そう?気持ちよくない?」
「気持ちよくはないな……」
「残念」
 つまらなそうに起き上がり俺の持っていた杯を受け取る。口に含んで何口か飲み込むと、杯を返してきた。
「もう1杯飲むか?」
「もういい」
 そういうと俺の上にまたがる。
「まだ、続けていい?」
 太ももの上に座りながら上目遣いに問いかける。やめる気はなさそうだ。
「続けるならもう俺に任せてくれてもいいんじゃないか?」
「それは嫌。文和に任せると……明日辛いし」
「辛くなればいいじゃないか」
 薄い布の上からそっと胸を撫でる。指の背がそこに当たればピクリと身体が反応する。指先で数回なぞれば身体が震え、あっという間に先端が主張し始める。布のさらさらとした感触で滑りがよく撫でやすい、それでいてその薄さから着たままでも形がよく分かる。もう少し、と思った時手を掴まれた。
「嫌だって、言ってるでしょ」
 きっとこちらを睨みながらも、その顔はまんざらでもなさそうな感じなんだがな。
「今日は私がするの」
 今日何度目かの宣言をしたあと、腰と腰が重なった。重なった場所がぬるりと滑る。

 さすがに今の胸だけでそこまで濡れることはないだろう。つまり舐めながら濡らしていたわけだ。俺の手を掴みながら腰を前後に揺らす。その度ににちゃにちゃと微かに音がなる。一体どれだけ濡らしていたんだか。お互いの股の間にそれを挟み込み、妻の愛液で滑らせて擦り付ける。掴んだ手を支えにぬるぬると動く腰がなんとも艶かしい。それでも恥ずかしさがあるのか目を伏せて視線を合わせないようにしているが、息がだんだんと荒くなっているのが聞こえる。こんなに積極的になってどうしたんだか。
「そんなことまでして欲しいのか?」
 その発言に動きが止まる。
「だって、満足してないの」
「どうしたら満足する?」
「……」
 返事は返ってこない。空いている方の手で妻の腰を掴み引き寄せる。
「んっ」
 自らではない動きに反応して声が漏れた。
「ダメ」
「じゃあ自分でいやらしく動くんだな」
「だからそう言って……」
 言葉にすると自分がしている行為がどんなに淫猥なものか意識するのだろう。さっきよりも顔が赤く染っていく。もっと助け舟を出してやろう。
 薄着の帯に手をかけするりと解く。着ていないも同然の衣でも脱ぐのは恥ずかしいのか手で襟を寄せる。
「あんたの全てを見せてくれ」

「無理……」
 腕で前を隠し、脱げないように抵抗している。隠す前の時点で見えていたんだがな。
「さっきまでの威勢はどうした。満足するまでするんだろ」
「する……けど」
「見せつけてくれ、あんたが満足するまで、な」
「……馬鹿じゃないの」
 その顔はさっきよりもさらに赤くなり、耳まで染まっている。前を隠していた腕をはずし、ゆっくりと肩から衣を脱ぐ。後ろで袖を抜くために少し反った胸が触ってほしそうに揺れる。全てを脱ぎ捨て生まれたままの姿がそこにあった。
「これで、満足?」
「いいね、絶景だ」
 腕をのばし腰を撫でる。ビクリといちいち反応するあたりがかわいい。
「さぁ動かしてみな」
 止まっていた腰が俺が言ったとおりに動きだす。前後に、自らのぬめりを擦り付けるように。腰を触っていた手を滑りあげ胸の下にあてる。ふにふにとその柔らかさを楽しむ。妻の目はいつの間にかまたとろりとまた熱を帯び始め、触られることにも抵抗しない。息が乱れ始めると手で口を抑えて隠そうとする。そんなことしても意味などないのに。腰の動きが強く早くなる。その動きはもはや俺を勃たそうとしてるのか、自らを満足させようとしてるのか分からない。その動きと息の乱れを見計らって胸の先端を親指でなぞった。その瞬間、妻の身体がふるふると震え腰が痙攣したかと思うとその動きを止める。荒く息をはきながら、こちらを睨む。
「どうした?もう満足か?」
 そう言いながらさらに胸を触ると睨む目がせつなげに変わる。何かを言おうとした口を必死で抑え声を出さないように堪えている。
「ほら、がんばれ」
と腰を掴んで動かせばまた前後に振りだす。そんなことを何度も繰り返してるうちに俺の方もまた熱を取り戻し始めた。

 妻も分かってはいるだろう。自分の股の下にあるものが段々と硬くなってきたことを。そこに擦り付け何度も1人で軽く絶頂を迎えてる。その度にもう無理とでも言うように首をいやいやと振るが、それでも少し刺激を与えればまた自ら腰を振り求め始める。泣きそうな、それでいて嬉しそうな表情が堪らない。
 何度かの絶頂を迎えたとはいえ、軽くに過ぎない。こんなもんじゃまだ満足しないだろう?
「腰をあげるんだ」
「ん……」
 休憩でもするのかと思ったのか素直に従い擦りつけていた腰を止め浮かす。妻の股と俺のものの間に透明な糸が垂れ、伸びる。まったくどれだけ一人で濡らしているんだか。押さえつけられてきたものが解放されむくりと起き上がる。
 さて、入れる前にほぐしてやらんとな、と膝立ちで待っているそこに手をやろうとすると妻の手がそれを止める。もう満足なはずはないし、まだまだ求めるのは分かってる。顔を上げ妻の顔を見るとふるふると首を横に振った。
「私が、するの」
 そういうと俺のものを掴み自分の割れ目にあてがう。
 妻とはいつも丁寧にほぐしてから入れるようにしている。少し無理にでも入れようとした時もある。が、本人が痛みに耐えてでも受け入れようとするのは愛おしく興奮するものでもあったが、少しずつしか入れることができず、それだったら指でほぐしつつさらに乱れさせてからの方が楽しいと考え直し、そうしてきた。
「無理するな」
 そういうこともあって嬉しいという気持ちよりは心配が勝る。だが妻を見れば、にっとあの笑みを浮かべている。
「だって、そうしたかったでしょ?」
 先端がゆっくりとそこに呑まれる。

 相変わらずそこはキツい。少しずつ入ってはいるがやはり痛いのだろう。眉をひそめ、息が短く泣きそうな顔をしている。
「ゆっくり息を吐くんだ」
 身体が少しでも緩むように助言をする。少しずつ、少しずつ入っていく様子がいやらしくもあり愛おしくもある。支えるためか、上半身が前に倒れ肩に妻の額が当たる。こちらに顔を向ければ半開きの口が何かを求めている。その唇に己の唇を重ねる。最初の時とは違う、痛みを忘れるための口づけだ。お互いを貪るように乱雑に激しく舌を絡め息継ぎも忘れるほど深く口づける。何度も繰り返し繰り返しお互いが一つにでもなったんじゃないかと思える頃やっと唇が離れる。
「……入った」
 妻のつぶやきにそこを見れば根元まですべて呑み込まれていた。ほぐしていないだけあっていつもよりも圧が強い。さらに絡むように動き出し、中の俺を締め付ける。首にしがみついている妻を抱きしめようとした手が背中に当たると、途端にその体がびくりと弾けた。
「ひぁ……あっ……やっ」
 ガクガクと身体が震え、しがみつく力が強くなる。まさか。
「動いてもないのにイッたのか」
「ちがっ……う……」
「そんなに欲しかったんだな?」
「……知らないっ」
 ここまできて素直にならない姿に苦笑しつつ、背中を指でなぞる。
「ひっ……やっ」
 気持ち悪さにだろう、肩を竦ませると力が入って中も締まる。そしてまた痙攣しては甘い声を漏らす。とはいえこちらもこれだけ締められると……一度出したのはこうなってはむしろ正解だったなと心の中でごちる。

 指先が背中をなぞるたび、縋り付く腕の力ががつ強くなり、中を締め付ける。まるで琵琶でも演奏してるみたいだ、と思った。残念ながらこの琵琶は素直に奏でられてはくれないし、音もなかなか出さないが。何度かそうやって楽しんでいると肩を軽く叩かれる。この琵琶は反抗までしてくる。
「どうした?」
 無言で肩をぺちぺちと叩き続ける。まさかもう満足というわけじゃないだろう。
「まって」
 絞り出すように出た声は小さく、いつもの生意気さの欠片も無い。
「自分でしたい」
「自分で、ね」
 いつもだったらあとはされるがままになるところだが、今日の意思は本当に固いらしい。
 肩に手をやり上体を起こす。そしてゆっくりと腰を動かし始める。痛みか、快楽かどちらかに耐えながら動かすそれはぎこちない。ゆっくりと抜かれ、そしてまた中に入っていく。入る度にいいところに当たるのか息が震え肩を掴む指が食い込む。いや、これは自分で当てているんだな。何度か続けるうちに動きが少しずつ滑らかになってくる。
「ふ……ぁ…………んっ……」
 とうとう動く度に声が漏れでてくるようになった。俺とする時は意地でも声を出さないような女が、だ。
「あっ……あっ……」
 自分で跨り、自分で挿入し、自分で奥の気持ちいいところに当て、甘い声をあげる。
「文和……」
 俺の名を呼びながら腰を振り気持ちよくなっている。
「文和…………文和ぁ……」
 これでは、もう。
「あ……や……っ!」
 一際激しく痙攣し中がぎゅうっと締まる。ぎゅっと固く目を閉じ、身体を反らせ、そして小刻みに震えた。しばらくすると腰の動きも止まり、甘く蕩けた顔でぼんやりと俺の上に座り込む。奥まで飲み込むとまたそこが気持ちいいのかぴくりぴくりと反応させている。
 妻の顎に手をやりこちらを向かせる。
「今日のあんたは随分と淫乱なようだ」
 呆けてた表情が少し曇った。
「夫のものを使って、自分でいやらしく腰を振って、一人だけ果てるなんてな」
「や……ちが、う」
「いいや、違わないね。今あんたは、俺を使って自分を慰めていたんだ。俺の見てる前でな」
 ふるふると首を振り懸命に違うと言おうとしている。
「そんな自分勝手で淫乱な女には、"お仕置き"が必要だな」
 ぐっと腰を持ち上げ、下から突き上げる。
「まっ……あっ……むりっ」
 逃げようとする腰を捕まえる。
「満足した、なんて言わないだろ」
 腰を掴み存分に下から突き上げ続ける。俺の上で、声を出すことすらできなくなりながら耐えることしかできなくなっている。耐え、締まり震える、そしてまたそれを繰り返す。
 どこが気持ちいいのかはもう知り尽くしてる。あとは満足するまで、だ。

 また一際大きくその体が跳ねた後、体が崩れもたれかかってくる。柔らかい黒髪が汗で背中に張り付いてる。
「も……無理……ほんとに」
 息も絶え絶えにつぶやくと首もとに額を寄せる。汗で女の匂いがより香り立つ。
「二回目が長くなるのはわかっていただろ」
 もう動かないでと懇願するようにしがみつく身体を抱きかかえ上下を反転させる。彼女を下に俺を上に。離れたらまた責められることが分かっているのだろう、背中に手を回し離れないようにしている手をゆっくりと外す。このあとのことを想像してか睨みつけるようにこちらを見つめている。
「欲しがったのはそっちだろうに」
 言い返される前に覆いかぶさりその唇をふさぐ。激しくはない、だが何も言わせはしない。自分が始めたことには責任を取るべきだろう?
 口内を愛撫しながら、抜けてしまったそれをもう一度その割れ目にあてがう。その先を想像させるように押し付け、まだ止まることのない蜜を絡みつかせる。固くなった芽に擦りつければ俺の腕を握る手に力が籠められる。名残惜しいが唇を離す。先端を入り口に沿わせゆっくりとその割れ目に己を侵入させる。
 何度見ても愛する女の中に自らが入って行く様を見るのはたまらない。俺の全てを受け入れてくれると感じる幸福感と、強気な女に抗えない快感を与えて蹂躙する征服感と、口では嫌と言っても離したくないという締めつけからの快感が堪らなく俺を滾らせる。
 ゆっくりと動き始めれば、そこは何の抵抗もなくぬるりと受け入れる。奥の壁に押し当てれば、腰が浮き身体が反り返る。反応を見ようと顔を覗くが、見られたくないのか腕で隠し、声を出さないようにぐっと口を引き締めて耐えている。その、声が聞きたい。快楽に抗えずに漏れ出る嬌声が。顔が見たい。普段から想像できないような甘く溶け切った顔が。
 角度を変え弱い場所に当たるように突き上げる。執拗に何度も。体は熱く汗が零れ、白い肌が赤く染まる。顔を隠している腕を掴み引きはがす。
「すべてを見せてくれ」
 止まることない快楽で染め上がり、その熱で焼き切れてしまいそうな顔をしている。泣きそうに涙を浮かべながらこちらを見つめる瞳が俺の加虐心を煽る。このまま本当に焼き切れてしまうまで堕としてしまいたい。そこまできっとどれだけ苦しかろうと受け入れてくれることをもう知っている。
「…ぶ…んか……ぁ」
 掴んでいた手を離せばその手は俺の背に延ばされる。しがみつき指を立て、必死に絶え間なく襲い掛かる波に耐えている。
「あっ……すき……」
 俺が満足するまで。いつもは出さない声までだして、しがみついて。
 その乱れた姿が動きを熱く早くさせる。
「すき…文和……すき……だか…らっ」
 耳元で俺を呼んで愛を伝えるその声を聞きながら、二度目となる精を妻の中に放った。






「なんで今日は自分からしようとしたんだ?」  頭から布団を被りこちらに顔を見せようともしない妻に疑問を投げかける。
「文和にすべて任せると、私の負担なんて考えてくれないから」
「一応考えてはいるんだがな」
「嘘、いつも途中から調子に乗ってる。今日も」
「否定はしないが、それを喜んでるのは誰だか」
 布団の中から足を蹴飛ばされる。
「それで……その気まぐれな挑戦はまた試すつもりなのか」   布団が少しめくられるといつも通りの妻の顔が覗く。
「気が向いたらね。それとも……」
 にやりとその口が楽しそうに笑った。
「文和のほうが癖になっちゃいそう?」